【明日への布石】(869)東武鉄道(2)他社との協調戦略
(2008年2月19日 フジサンケイビジネスアイ)
■広域路線で便利さアップ
≪新宿・渋谷に直結≫
今年6月の東京地下鉄(東京メトロ)副都心線開業を機に、東武東上線は池袋に新宿、渋谷を加えた首都圏の3大ターミナルと直結する。副都心線は池袋−渋谷間の8・9キロだが、東上線利用者の利便性・沿線価値の向上は図りしれない。2012年度には渋谷経由で東急東横線との直通運転も始まる。埼玉県南西部から都心を経由し横浜方面に至る大動脈となり、人の流れは大きく変わる。
東武鉄道の他社線乗り入れの歴史は古い。初めて伊勢崎線が東京メトロ日比谷線と相互直通運転を開始したのは1962年。当時、同線は東京都区部に乗り入れる私鉄幹線で唯一、JR山手線の駅に乗り入れていなかったが、日比谷線経由で実現した。03年3月には東京メトロ半蔵門線、東急田園都市線との直通運転を開始。都心部へのアクセスを改善しドアツードアの通勤通学を可能にした。
鉄道事業本部営業部営業企画課課長補佐の吉田一宏(38)は、「新線建設は多大な費用がかかる。他社と相互に路線網を活用する戦略にシフトした」と語る。東京、千葉、埼玉、栃木、群馬の1都4県にわたる東武の路線は463・3キロでJRを除き関東で最長。他社線への直通運転によりネットワークは福島、神奈川まで広がった。
東武の輸送人員は93年の9億5028万人をピークに減少してきた。就業、就学人口が減った影響が大きく沿線人口増加が輸送実績には結びつかなかった。運輸部運転課課長補佐の石橋大輔(33)が「沿線に観光地や地方都市を抱え他社とは特性が違う」と分析する通り、他社の輸送人員は04年度に増加に転じたが、東武は2年遅れた。06年度の輸送人員は前年度比0・6%増、07年度上期も同1・2%増と好調だ。
社長の根津嘉澄(56)は「競合路線に対抗する施策が功を奏した」と語る。
施策とは06年3月、伊勢崎線の半蔵門線・田園都市線との直通運転区間で埼玉県内の終着を南栗橋のほか、久喜にも設定し急行列車運行でスピードアップを図ったことや、JR新宿−東武日光・鬼怒川温泉間でJR東日本と特急列車の相互直通運転を開始したことを指す。
前者は、05年に開業したつくばエクスプレス(TX)への対抗策の一つ。TXへの流出も見込みの半分にとどまり、半蔵門線直通利用者は約20%伸びた。またJR東日本との取り組みも、新宿駅からの特急利用客が増え浅草駅は減るという当初予想に反し、浅草は前年度比7%増となった。
≪大きなメリット≫
東武東上線は通勤通学の足として東武の輸送人員の半分を占める中核路線。しかし副都心線開業により和光市−池袋間で2路線が並走することになり、池袋でJRに乗り換えて新宿、渋谷へ向かう客を中心に相当の旅客流出は避けられない。現状でも和光市−池袋間で東京メトロ有楽町線への流出が続いている。すでに和光市以遠からの利用客は、同区間での割合が東上線8に対して有楽町線2。副都心線直通運転は有楽町線への流出に拍車をかける。
東上業務部運転課課長補佐の田中清(39)は、「それでも副都心線のプラス効果は大きい」と確信する。住宅地として沿線価値が高まり人口増加も期待できる。さらに、東上線沿線には小江戸と呼ばれる川越や自然に恵まれた景観があり、ハイキングや日帰り旅行に最適な観光地も多い。12年度の東急東横線との直通運転で、関東南部から観光客を呼び込むことも可能になるとみている。
ただ、沿線最大のターミナル、池袋駅の利用客減少は食い止めたい。田中は「調整中の6月ダイヤ改正で3駅を結ぶメリットを最大限に具現化する。収入減はカバーできる」と自信をみせる。
6月の副都心線開業は第1ステップ。将来の沿線価値は、横浜直通運転でさらに広がるビジネスチャンスをどう生かすかにかかっている。=敬称略
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posted by train news at 11:09
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