消える「富士」思い出いっぱい 東京発最後のブルトレ…ファン続々
(2009年2月20日 産経新聞)
東京駅を発着する最後のブルートレインとなる寝台特急「富士」(東京−大分)と「はやぶさ」(東京−熊本)のラストランまで、残り1カ月を切った。なかでも「富士」は、日本で初めて列車の愛称に使われた由緒ある名前。最後の列車となる3月13日の乗車券は発売後わずか10秒で完売。思い出が詰まり、伝統の名前を持つ列車を目に焼き付けようと、東京駅のホームには大勢のファンが連日集まっている。
19日午後5時20分ごろ、カメラを構えた大勢の鉄道ファンが待ち受ける中、東京駅の10番ホームに「富士・はやぶさ」が入ってきた。機関車の切り離しや連結作業を経て、午後6時3分、ゆっくりと出発した。
JR東日本東京支社によると、廃止が発表された昨年12月19日以降、東京駅のホームに集まるファンの数は日に日に増え、最近では平日100〜150人、週末は300〜400人に。「30年前の新婚旅行で乗車されたというご夫婦もいました」(同支社広報)という。
ホームに集まるファンは、この列車にそれぞれ特別な思いを持っている。仕事帰りに来た会社員、小鍛治晃さん(43)は「14歳のとき、日本最長の走行距離だったころの『富士』に父親と乗った。台風で遅れて26時間半もかかったけど、忘れられない思い出になった」と話す。
妻と一緒に乗車した東京都杉並区の小長谷栄さん(71)は「新幹線や飛行機ではあっという間、旅はのんびりした方がいい。道路がよくなりバスも増えたし、時代の流れで仕方がないけれど…」。
「富士」は、明治45年に誕生した新橋と下関を結ぶ特急が原型とされる。当時高嶺の花だった1、2等車のみで編成した豪華列車で、朝鮮半島への航路やシベリア鉄道を経由し、欧州につながる国際的な特急だった。昭和4年に国内で初めて愛称が付けられ、最後尾に富士山をかたどったテールマークを装着した。
鉄道アナリストの川島令三(りょうぞう)さんは「伝統ある『富士』の名前が復活することがあるとすれば、リニアモーターカーではないか。それ以外じゃ恐れ多くて難しいだろう」とその重みを語る。
「はやぶさ」は、昭和33年に東京−鹿児島間を結ぶ特急としてデビュー。現在は東京−門司間は連結した「富士・はやぶさ」として、門司から先は切り離して単独の「富士」「はやぶさ」として運行している。
客車を所有するJR九州によると、昨年度の2列車の平均乗車率は4割程度。夕方出発し17〜18時間かけて翌日午前10〜11時ごろに到着するが、通勤客を乗せた列車を優先するため、途中で何度も通過待ちをするなど速達性が損なわれていたうえ、ダイヤ編成時の障害にもなっていた。
東京駅発着のブルトレは昭和50年代の最盛期に9本を数えたが、新幹線網の発達、飛行機の値下げ、夜行バスの台頭などを背景に数年前から次々と姿を消している。来月のダイヤ改正後に残るブルトレは「北斗星」のほか、「あけぼの」(上野−札幌)「北陸」(上野−金沢)「日本海」(大阪−青森)となる。
◇
【用語解説】ブルートレイン
鉄道愛好家の間で自然に定着したため定義はまちまちだが、(1)寝台特急である(2)機関車が客車を牽引(けんいん)する(3)車体が青い(4)20、14、24系車両を使用する−の条件を満たす列車を指すとされる。昨年廃止の「銀河」は急行なので、厳格な鉄道愛好家は含めていない。東京駅発着の寝台特急では「サンライズ出雲・瀬戸」があるが、客車にもモーターを搭載した機関車のいらない電車タイプの列車。
鉄道ブログランキングへの応援 お願いします!