作業着脱ぐ日 は当分先
(2011/9/11 日本経済新聞)
8月30日、東京・霞が関の国土交通省。目の前の国会議事堂では新首相を指名する衆院本会議が開かれている中、三陸鉄道(岩手県宮古市)の望月正彦社長(59)は、久保成人鉄道局長に東日本大震災からの復旧に向け「国の支援を」と頭を下げた。
岩手県の沿岸部を走る三陸鉄道は津波で線路や橋、駅が流されるなど大きな被害を受けた。宮古市内の事務所も発生直後は停電で使えず、望月社長らは宮古駅に停車中の列車を対策本部にして被害の把握にあたった。夜は寒さをしのぐために新聞紙をかぶり、列車の座席で眠る生活が3月16日まで続いた。
「住民の足を確保しなければいけない」と被害が小さかった区間から順次、運転を再開した。しかし全線107キロメートルのうち、開通したのは36キロメートルにとどまる。望月社長は7月の株主総会で2014年4月までに全線復旧を目指す方針を示した。
線路やトンネルのがれきや泥は、自衛隊や沿線自治体の協力で撤去した。現在は崩れた築堤や橋の工事方法の検討、工事用資材の置き場の確保、被災駅の移設場所に関する地元との協議が進む。
復旧費用は110億円程度と見込むが、17年連続で経常赤字が続く同社に負担する余力は乏しく「限りなく10割に近い国の補助が必要」と訴える。国の第3次補正予算に必要経費が盛り込まれないと、設計や資材発注、工事に着手できない。「3次補正が決まらないと計画通り復旧できない」と焦りの表情を見せる。
震災後、自社の作業着を着続けている。東京への出張も作業着姿のままだ。「復旧していない区間が残るのでスーツを着る気になれない」。作業着を脱げる日はまだ先になりそうだ。
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