(2010年10月21日 読売新聞:社説)
JR東海が計画しているリニア中央新幹線が、南アルプス直下を貫通する「直線ルート」で決着する見通しとなった。
国土交通省の審議会が20日、南アルプスを北に迂回(うかい)する「伊那谷ルート」と「木曽谷ルート」に比べ、「直線ルート」は距離が短く建設費が圧縮できるなど、最大の投資効果が見込めるとの試算を公表したためだ。
懸案だったルート選定にメドが付いたことで、今後は、採算性や安全性などの検討に入る。こうした作業を着実に進め、早期開業を目指してほしい。
磁力で浮上し、時速500キロで高速走行するリニアモーターカーを使った中央新幹線は、東海道新幹線を運営するJR東海が構想を進めてきた。
東京―名古屋―大阪の3大都市圏を67分で結ぶ「夢の超特急」で、閉塞(へいそく)感が漂う日本に久しぶりにインパクトを与える巨大プロジェクトと言ってよい。
2027年にまず東京―名古屋間を40分で結び、45年には大阪まで延伸する計画となっている。
開業から46年が経過した東海道新幹線は設備が老朽化し、輸送力も限界だ。大規模な補修や大地震などを想定すれば、バイパスとしても役割は重要である。
自動車や航空機に比べ、環境に優しい鉄道は世界的に見直され、高速鉄道計画が相次いでいる。日本が世界に先駆けて長距離リニアを実用化すれば、海外展開にも弾みがつくことが期待されよう。
夢の実現には不安もある。名古屋までの区間で5兆円かかるという建設費は、JR東海が借入金などで自己負担し、国費に頼らない方針だ。大阪延伸の場合は9兆円にまで膨らむ。
JR東海は、リニアと東海道新幹線を並走させても全体の需要は増加すると予想するが、需要見通しは妥当なのか、事業の採算性を厳しくチェックすべきだ。
それにしても、これだけの巨大事業を民間企業が単独で実施するケースはほとんどない。鉄道建設に政治が過度に介入してきた歴史を繰り返してはならないが、国家的事業であることを考えれば、政府の側面支援も必要となろう。
用地買収を抑えるため全路線の7割が地下トンネルを走行し、難工事が予想される。運行面も含めて安全面や環境面で万全な対策が求められる。
六つの中間駅の建設費負担を巡る関係自治体との調整も残る。事業者、国、利用者、自治体が納得できる次世代鉄道にすべきだ。
リニア新幹線―直線ルート精査し説明を
(2010年10月21日 朝日新聞:社説)
壮大な新プロジェクトに注目したい。JR東海の「リニア中央新幹線」のおおまかなルートが内定し、計画が本格的に動き出す。国土交通相が諮問した審議会がきのう、長野県内で迂回(うかい)する2案を退け、南アルプスを貫く直線ルートを選んだ。
直線ルートのリニア新幹線は、東京―大阪間の約440キロを直行すれば67分で結べる。審議会の答申や国交相の認可は来春以降となるが、JR東海の検討にはずみがつきそうだ。
整備新幹線のような公共事業ではない。8兆円を超える東阪間の建設費をJR東海が自前でひねり出す、前代未聞の巨大民間事業である。開業後の採算も考えれば、建設費が最も安いルートを選ぶのは当然だろう。
超伝導で軌道より10センチも浮いたまま最高時速500キロ超で営業する世界最新鋭のリニアは「地上と地中を飛ぶ航空機」とも言える。旅客機と競うにも東京から名古屋まで40分、大阪へ1時間余と最短の直線ルートが最適だ。
この計画は整備新幹線と同じ法律にもとづいて手続きを踏んでいる。巨大な社会基盤として、公的な面からの慎重な検討が必要だからだ。
今後、計画を詰める上で課題となるのは、南アルプスの大自然への影響を最小限に抑え、長大なトンネル工事や超伝導リニアという新技術がもたらす安全性への不安をどう一掃するかだ。国交省や審議会、JR東海はこれらについて、国民にていねいに説明しなくてはならない。
まず着工する東京―名古屋間だけでも投資規模は5兆円を上回る。事業規模が一企業にとって巨大すぎるのではないか、といった懸念が国民の間にあってもおかしくない。だが、JR東海は国鉄民営化後に東海道新幹線を政府から約5兆円余で買い取り、その借入額を約2兆円減らしてきた実績がある。その経験は生きるだろう。
とはいえ日本は人口減少が続く。右肩上がりの鉄道需要を期待することができない以上、事業の採算をはじくうえで甘い需要見通しに立つことは避けねばならない。
JR東海は、景気悪化で東海道新幹線の利用客が減って収益が悪化したため、東名間のリニア新幹線の開業目標を当初の2025年から27年に延ばした。大阪までの開業は45年となる。
いずれ東海道新幹線の大規模修理が必要になることも考えれば、リニアの早期開業が望ましいが、事業採算を考えるなら、やむを得ない判断だったのではないか。
リニア新幹線の需要が長期的に見込めるためには、政府の役割も大きい。訪日観光客を大幅に増やし、航空網や高速道路との総合的な役割分担を進める。そうした成長戦略の実施が、何よりも早期実現への支援策になる。
リニア小委 論議は尽くされたのか
(2010年10月21日 信濃毎日新聞)
ほぼ直線の南アルプスルートの方が、諏訪・伊那谷ルートより費用対効果や経済波及効果は高い−。
リニア中央新幹線のルート問題で、国土交通省の交通政策審議会小委員会が試算結果を公表した。JR東海の主張に沿う結論である。
けれども小委員会での議論には尽くされていない論点が残っている。このまま突き進んでいいのか、疑問が残る。
これまでの論議は、三大都市を直結させる経済効果、JR東海の事業能力に比重が置かれ、沿線地域の振興や環境保全の観点は弱かった。ルート比較は民間調査機関に依存し、需要予測の過大さも指摘される。委員には、大阪までの早期開業を期待する前のめり気味の発言も目立った。
南アルプスを貫く約20キロのトンネル工事についても、「技術的に可能」とする委員会メンバーの説明で終わり、総合的視点から技術課題を検証するまでに至らない。
ルート比較とともに公表された環境調査結果は、水環境や動植物保護区、自然景観の分布といった観点で国や県の資料から大まかに整理したにとどまる。
これでは綿密な検証とは言えないだろう。
リニア計画は2007年末から動きだした。JR東海が建設費の約5兆1千億円を全額負担し、2025年に東京−名古屋間の開業を目指す方針を明らかにしてからだ。その後の経営状況から、開業目標は27年に延期されている。
小委員会は年内に中間取りまとめを行う。それを受けて交通政策審議会が来春にも国土交通相に答申する予定だ。その後、国交相が整備計画を決める段取りになる。
本来なら国家プロジェクトとすべき大事業である。財政難の国に代わって民間企業が自前で進めるなら大歓迎−。政府内にはこうした考え方が強い。社会的影響の大きい事業が企業ペースで進むとしたら問題だ。
法律で定める新幹線整備の基本理念には地域振興がある。企業の事業でも「三大都市を最短で結べば、それでよし」とするなら、沿線地域の協力は得にくくなるだろう。環境保全、中間駅、停車本数など今後の課題は多い。地域に配慮し、丁寧に進めるべきだ。
長野県の対応にも問題がある。小委員会のヒアリングで村井仁前知事は、ルートに触れなかった。県としてどう向き合うか、検討作業を急がねばならない。中南信の発展に中央新幹線を生かすため、長期ビジョンの論議に入りたい。
鉄道ブログランキングへの応援 お願いします!

